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どれくらいたったんだろう。
まわりには、頭上に切れかけの裸電球が一つあるだけで、あとは段ボールや木片などのゴミが散乱している。
窓もなく、今は夜なのか朝なのかもわからない。
もう六月だが、少し肌寒い。
幸か不幸か完全に密閉されたこの納屋は、外気を完全に退け室温だけはそれほど下がらなかった。
ここに閉じ込められた時、大声でずっと叫んで助けを求めてはいたが、助けてとは決して言わなかった。
正確には言えなかった。
生れつきほとんど耳が聴こえなかったから、発音の仕方がわからなかった。
「あああぉぉー…」
助けを呼ぶ声は、ずっと叫び泣き続けていたため、かすれ、力無く消えた。
硬く縛られた縄を解くことは、九歳の私には難しかった。
それでも無理に解こうとして腕に血が滲んだ。
私は薄暗く寒い納屋で寂しさと空腹を紛らわせるよう、母のことを考えていた。
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