記憶

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「………。」 本堂の目の前まで来たその者は、周りには聞こえない声量で呟いたが、その言葉は刀狩りにも俺にも聞こえてはこなかった。 「何ボソボソ言ってんだ?」 刀狩りの言葉を黙らせるかのように、その者はフードのように被っている麻布で、隠れた顔の奥にある2つの眼で睨み付けた。 その眼を見た刀狩りは、顔を強張らせながら指1つ動かせずにいた。いや、動けないといった方が正しいだろう。 その者はゆっくりと刀狩りたちに近付くと、女の子を奪い取り、刀狩りが持っている刀に手を伸ばしたした瞬間。 金属音とともに、その者はシグレを抱えている腕とは逆の腕で、防御するように素早く背中の刀を抜刀し、後ろに大きくバックステップしてきた。 少しの間をあけて、その者は俺の方に振り返り、気絶していたシグレを俺の近くに寝かせ、すぐさま立ち上がり刀狩りたちの方へ行ってしまった。 俺はただその者の背中見送ることしか出来なかった。 刀狩りたちは、その者が眼を離したことにより動けるようになった。 すると、今度は俺にも聞こえる音量で、それでいて凄く聞き慣れた声で、麻布の者は喋った。 「お前ら用心棒でも雇ったんか? 《仕込み刀七人衆(しこみがたな しちにんしゅう》1人雇うのでも大金はたいたんだろ、ご苦労なこったな」 「うるせぇ、すべてはここにある青龍宝剣(せいりゅうほうけん)のための計画なんだ。てめぇなんかに邪魔はさせねぇぞ」 「お前なんかにはそいつは扱えんよ」 「ほざけ、お前なんかセイリュウに食われちまえ」 すると、刀狩りはその手に持っている金の装飾に、青く輝く青龍宝剣を空に掲げ叫んだ。 「来い!セイリュウ!!」 「……………………。」 刀狩りが叫んでも何も現れないし、何も起きなかった。 「くそっ、何も起きねぇじゃねぇか! この宝剣本物じゃないのか?」 イラつきながら言う刀狩りに、その者は反論するように応えた。 「いや、それは紛れもない本物の青龍宝剣だ。ただお前になんか、使いこなせないだけさ」 刀狩りは、麻布の者の言葉に余計に苛立ち、本堂から出てくると、青龍宝剣を振りかぶり布切れの者へ向かってきた。 「てめぇ、雑魚が意気がりやがって、ぶっ殺してやる!」
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