記憶

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刀狩りが青龍宝剣(せいりゅうほうけん)を振り上げながら向かってくるのを見ると、麻布の者は、刀を自分の正面の地面に突き立てた。 そして、胸の前で人指し指と中指を立たせ、印(いん)をつくり、ボソボソと何か呟き始めると、麻布の者の影がゆっくりと動き出した。 麻布の者の目の前で、盛り上がるその黒い影は、徐々に人の形へと形状を変化させていき、麻布の者そっくりの形に姿を変えた。 それを見た刀狩りは足を止めた。 「な、なんだよ……それ」 麻布の者は、刀狩りの言葉に応えることなく目を閉じ、印を崩さずにいた。 影人形が現れたのと同時に、地面から細長い2対の黒刀も現れた。 影人形が刀を左右の手に握り、一度体の前でクロスに重ね合わせ、刀同士を擦り、振り払うように左右に勢いよく広げた。 金属が擦れる音が、刀狩りを奮い起たせる。 「さぁ、いくぞ」 呆然と見ていた刀狩りは、目を開けた麻布の者の言葉に我に返り、青龍宝剣を握り直すと、再び向かってきた。 「そんなこけおどし、ぶったぎってやる!」 雄叫びと共に刀狩りが降り下ろした青龍宝剣と影人形の片方の黒刀が重なり合い、金属音と共に、火花が散った。 押さえつけるように両手で圧をかける刀狩りだが、片手で微動だにしない影人形に対して、焦りを見せていた。 「くそっくそっ、なんだよ……こいつ」 徐々に刀狩りの剣圧が弱まり、影人形が押し始めた。すると、刀狩りは影人形を前蹴りし、距離をとった。その前蹴りも、もう片方の黒刀で防ぐ影人形。 刀狩りは息づかいを荒くし、宝剣を影に向けながら、睨んできた。 「はぁ…はぁ…くそっ、青龍宝剣だってのに、ただの刀と変わらねぇじゃねかよ!」
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