記憶

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「ハルちゃぁぁぁぁぁん」 不意に後ろから大声で自分の名前を呼ばれたため、大きくビクついてしまった。 シグレを抱き抱えたまま、俺は後ろを振り返ると、ナギと数人の大人たちが、腰に刀を携え、走ってこちらに向かってきてるのが目に入った。 大人たちのうち、一人はカエデさん、その他の人も道場で見覚えのある腕利きの人たちだった。 走ってくるや、ナギはその勢いで俺に抱きついてきた。 「バカぁぁ!! 隠れててって言ったでしょ! なんでまだここにいるのよ。って、どうしたのよ、その顔。凄い腫れてるじゃない」 神社に入ってきたナギと、大人たちだが俺の側にきたナギにまたもや怒鳴られてしまった。 ナギは俺の横で、気絶しているシグレを見て、今にも泣きそうな声で叫ぶ。 「シグレちゃん。ねぇハル、シグレちゃんは、シグレちゃんは大丈夫なの?」 俺は、震えた声でしゃべるナギに向かって小さく頷いた。 こちらの様子に気がついた仕込み刀衆の2人が、騒がしいこてに気がついた。 「なんか邪魔が入っちゃったみたいね、まぁ怪我するの嫌だし青龍宝剣は諦めることにするわ フフッ」 モズクは再び麻布の者に視線を戻し、再び扇子で、口元を上品に隠しながら笑っていた。 「俺は無駄足だったな」 その横では、笠で表情は見えないが言葉に感情がないマタタビが、腰にある横笛を取り出していた。 「また一緒に遊びましょマタタビちゃん」 「断る!」 「酷っ、モズクちゃん傷付いちゃったなぁ、女の子を泣かせるなんてマタタビちゃん、最低ぇ」 「勝手に言ってろ」 そういうと、マタタビは取り出した横笛を吹き出すと、綺麗な透き通った高い音色が周りに響き渡る。 心が癒されるような音色に、時間を忘れさせるような感覚に陥った。 あれ? 俺は何をしていたのだろうか、どこにいるのだろうか…… ふと 、草木が風に吹かれる音と共に、目を覚ました。 気がつくと、マタタビとモズクの姿が消えていた。 一瞬のことだった。
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