記憶

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──カァンカァン── 聞き慣れた鉄をリズム良く叩く音で、俺は目を覚ました。 重い瞼を擦りながら、俺は起き上がると、あくびをしながら殺風景な和室部屋を出た。 日本家屋を思わせる木造の古びた広い家は、廊下を歩くたびに床がギシギシと軋む。 俺は、本家から離れへと繋ぐ廊下を踏み鳴らしながら、廊下の奥にある部屋へと向かった。 部屋の襖を開けると、ブワッと熱気が寝起きの体を襲い、汗がにじみ出てきた。 その部屋は工房を思わせる様々な道具が揃っていた。大きな釜戸には火が熱せられ、真っ赤に燃え盛っている。火釜の前には、長方形の石釜に水がはられていた。 部屋に入るとすぐそこに置かれた草履を履き、俺は、鉄ばさみと金槌を使って鉄を叩いている人に向かって、いつも通り朝の挨拶を交わした。 「父さん、おはよう」 鉄を叩く音が止まると、赤く熱せられながら叩かれていた鉄が水釜の中に入れられ、一気に冷やされた音が響き渡り、俺の父親は振り返り、俺の返事に応えた。 「おぉ、おはよハル! 顔洗ってこい今日も昨日の続きするぞ」 そう言われると、俺は軽く返事をし、仕事場の裏にある井戸の水で顔を洗いに出た。 日が昇りきっていない朝方、キンキンに冷えた井戸水が顔に染み渡る。 秋の紅葉の森に囲まれた家の屋根に小鳥が朝の歌をさえずっている。 冷たい井戸水のお陰で眠気もふっ飛び、干してあるタオルで顔を拭くと、それを頭に巻き、父さんがいる工房へと戻った。 俺の名は《閏月 晴海(うるうづき はるみ)》 この東の果てに位置する自然豊かな田舎の村で産まれ育った。 俺の家系は、代々刀鍛冶を生業(なりわい)とし、今や刀以外にも様々な道具などを請け負って、他の街や村に売りに行ったりしている。 俺の目の前にいる父、《閏月 出雲(いずも)》は閏月家6代目刀鍛冶師である。 無精髭を生やし、筋肉質のその体から打たれる鎚は赤く熱せられた鉄を透き通るような音で打ち鳴らし響かせる。 仕事に集中する父さんの背中を、俺は小さい頃から見てきた。 そして、俺は半年前に12才の誕生日を迎え、その日から7代目として、父さんから刀鍛冶を教え込まれている。 なんでも閏月家では、12才の誕生日を迎えると、あとを次ぐために閏月家の刀鍛冶の技術を教え込まれるのだと、この間説明された。
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