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彼は言葉を失った。
名前も知らない少女が放った言葉は彼の本心そのものだった。
死にたい、という言葉を誰かが口にするたび、怒りで腸が煮えくり返った。
テストが出来なかったから死にたい。
親に怒られたから死にたい。
寂しくて死んじゃいそう。
そうやって死ぬという言葉を軽々しく使いたがる人間が許せなかった。
それは彼に対する明確な侮辱だった。
毎日毎日き、今すぐ人生を終わりにしたいという渇望と戦い、喜怒哀楽などとっくに消え失せているのに笑って泣き、自分の心拍にさえ嫌悪感を覚えながら、それでも生きている人間への。
思わず、シャツの胸のあたりを掴んだ。
そこがきりきりと痛むような気がした。
そうだ、僕はずっと死にたかった。
その気持ちを初めてひとの前で認めたとき、堪えてきたものが泪になって二筋、眼から零れ落ちた。
この日の空の青を彼は最期まで忘れなかった。
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