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倉木和壱は階段を登っていた。
時刻は正午過ぎ。
チャイムの音が鳴ると、コンクリートの校舎は俄に明るい声で弾けた。生徒たちは各々のグループに合流し、それぞれ思い思いの場所に散って行く。無事友人と落ち合った生徒たちが一人、また一人と廊下から消える。賑やかだった校舎は時折笑い声が響くほか、また少し静かになった。
「倉木!」
誰もいなくなった階段を一人ふらふらと登って行く和壱の背中に、一人の少年が声を掛けた。
「お前、どこ行くんだよ。」
和壱は手に持っていたレジ袋を掲げて見せた。購買部の、何の愛想もない白い袋。中身はどうやらパンらしく、無愛想な袋は丸みを帯びた可愛らしい形に膨らんでいた。
「何だまた彼女とメシか。邪魔して悪かったよ。」
にやにやと笑うクラスメイトに、和壱は苦笑いで答えた。それを肯定と受け取ったらしく、口笛を一つ吹いて彼は教室に戻った。
昼練にはちゃんと行くから、と慌てて言い添えた和壱に、クラスメイトは振り返ってまたにやりと笑った。
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