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和壱の苦笑いの理由は、別に照れ隠しではなかった。お人好しの彼はまるで気が付いていないようだったけれど、倉木和壱に恋人はいない。
もういつだったかも覚えていない頃に、屋上に行く理由を作るために考えた適当な嘘だった。
だから苦笑いの理由は甘酸っぱい恋心ではなく、ほろ苦い罪悪感な訳で。
和壱の通う県立櫻河高校において、屋上に登るというのは奇人変人のすることとされていた。屋上ほど不快な場所はない、というのがこの学校の生徒及び教職員の一致した見解だった。何しろ櫻河は猛烈な山下ろしで有名な町である。一年中突風が吹き荒れ、ひどい時には立っていられないほどだった。
そんな状況で野外で昼食を取ろうとするとする人間、しかも毎日毎日ひとりで外に行きたがるような人間は浮くに決まっている。
それでも屋上に行く理由が、彼にはあった。
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