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突然のことに和壱は思わず立ち上がった。膝の上からビニールが、パンが、紙パックが滑り落ちる。零れたコーヒー牛乳は彼の足元に小さな水溜まりを作った。
辺りを見回す。
人影のない屋上。
遠くから聞こえる靄のかかった話し声と自分自身の心臓の音。
「ねえ」
少女の声はなおも続けた。
少しだけ、ほんの少しだけ押し殺した苛立ちの色を含んで。
凍り付き立ち尽くしていた和壱はようやく我に返った。
そろり、そろりと薄氷を踏むように前に踏み出す。そのままゆっくりと後ろに振り向いた。
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