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白い給水棟の上に声の主は腰掛けていた。
逆光で顔立ちはよく判らない。着ている制服からどうやら同じ学校の生徒らしいということだけは見てとれた。
長い真っ直ぐな黒髪、三つ折りの靴下、膝下の丈のプリーツスカート。いかにも優等生然とした身なりはしかし、微塵も野暮ったさを感じさせない。
それどころか、和壱はこの華奢な少女に軽く気圧されていた。お前は誰だと、質すことも出来ないくらいに。
土埃と煤にまみれた給水棟がまるで女王陛下の玉座のように見える。
「倉木和壱くん、かしら。」
額に手の甲を翳し、眩しさに目を細めながら、一拍遅れてああ、と彼は返事をした。
なぜ名前を知っているのだろう、という疑問が一瞬浮かんで、沈んだ。同じ学校なら名前くらい知っているかもしれない、そう思っても自惚れではない程度にこの高校は小さかったし、彼は有名人だった。
違和感は拭えなかったけれど。
「あなた」
彼女が笑っていることが気配で分かった。何となく、嫌な予感がした。
「あなた、死にたいんでしょう」
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