プロローグ 失われた未来

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―――――――-――――――― 見渡す世界は芳醇で、生命の息吹きに満ち溢れていた。 地面を見れば道端に咲き誇る花、そよ風に揺れる木々の緑。 空を振り仰げば汚れのない蒼穹が際限なく広がり、視界の隅には街を形作る摩天楼の群が。 そしてその世界を生きる人々の顔には輝く笑顔が浮かぶ。 そのどれもが、あの日ボクが見ていた『破滅の世界』には存在し得なかったモノ。 あの時誰もが待ち望み、しかし誰も手に入れる事の出来なかった理想の『未来』。 ――そんな光景が今、当たり前の様に視界に広がっていた。 ??? 「…………」 誰もいないビルの屋上。 転落防止の柵の上に腰掛けてボクは1人思考の海を漂う。 ……今のこの世界を見たら、彼らはなんと言っただろうか。 未来を救う為に命を賭して戦い、その果てに敗れていった彼らはどう思っただろうか。 今となっては彼らの口から思いを聞く事は叶わないが、どんな事を言うかは想像出来る。 気高く優しいあの人達の事だ。 きっと「これで良い」と人知れず静かに微笑んだだろう。 経過こそ違えど、世界が辿り着いた結末は彼らの目指した未来そのものとなったのだから。 ??? (でも……ボクは…………) それは本来自身にとっても悲願であり、望んでいた未来が叶った事は喜ばしい事である。 けれどいざその『世界』を前にして、ボクは喜べなかった。 確かにこの風景はあの日の彼らとボクの願いが体現された、理想郷(アルカディア)の景色。 絶望も悲嘆も苦悩も無く、皆が皆平等に夢を叶えるチャンスを手に生まれられる世界。 でも――その理想郷にボクの居場所は何処にも無かった。 1度世界からはぐれ、戻ってきたボクを迎えてくれる人は誰も残っていなかったのだ。 そうしてボクに訪れたのは、温かな理想郷を見つめながら絶対的な孤独に凍え震える日々。 誰もボクを知らず、存在しない者として過ごす日々は耐え難い苦しみとなってボクの心を徐々に削り取っていった。
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