10人が本棚に入れています
本棚に追加
芹沢は、同じクラスメイトの少年の上に馬乗りになっていた。ブレザーの肩に黒板消しを押し付けたかのような痕が残っていた。あなたは、周りを見てすぐに何が起きたかを悟った。
周りのクラスメイト達は、「自分は関係ありません」を装い、自分達の机に座った。まるで、あなたと暴れていた少年達が舞台上の役者であるかのよう。客席の傍観者達は、次に何が起きるのかとわくわくしている気持ちを必死に押し隠しているようだった。ただ、あなたにそんな見え透いた誤魔化しが通じる筈も無く、あなたは、何がおかしいのか、と怒鳴った。同時に、あなたはある事に気づいて、怪訝に思う。朝早くからこれだけ生徒が来ているのは、どうしてなのだろうと。
部屋がしんとなるのに構わず、あなたは馬乗りになっている少年に、まずは降りようぜと、提案した。少年は瞳一杯に涙を溜めていたが不承不承というような様子で降りた。
「こいつが、あいつを泥棒呼ばわりするっから!!」
芹沢は叫んで、クラスメイト――家永だ――を指差す。降りて早々、再び殴り掛からんばかりの剣幕だ。あなたは、家永を芹沢から引き離しつつ、立ち上がらせた。
家永は、いかにも狐みたいなほっそりとした顔をしている。口元を細く細く左右に伸ばし、ふひっと笑った。
「だって、そうだろう? あいつのロッカーから横田の財布が見つかったんだから」
あなたは何が起きたのか、さっぱりだったので、2人に1から説明するようにと問いただした。
「萩原のロッカーだよ。あいつのロッカーから横田の財布が出て来たの。だから、こいつは萩原が財布盗んだんだろうって」
あなたがクラスを見回すと、そこには青ざめた顔の少女の姿がいた。萩原。普段は明るく、はきはきとした元気一杯の少女だが、失敗すると極度に動揺する傾向がある。例えば、数学で当てらて、皆の前で計算ミスした時とか。動揺のあまり、持っていたチョークをグーで握りつぶしてしまった事がある。見ていて思わず微笑んでしまいそうになるのだが、本人は必死なので、そうするわけにもいかない。
あなたはまず、萩原を呼んだ。
最初のコメントを投稿しよう!