十題噺(地獄の)

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――ぽつりぽつり。  道に沿って並ぶのは産業革命時、ロンドンで大量に造られた街灯だ。が、しかしここにあるのは正確には街灯ではない。  ここは街ではないし。  ロンドンでもない。  アメリカ、オレゴン州の田舎にある広大な私有地に立てられた物だ。ロンドンの郊外を模してか、地面には煉瓦が敷き詰められている。自転車のペダルを踏む度にガタガタと言う振動が腰を伝って身体に流れる。  そうして、事件現場の周りをどの位走っただろう。周りを調べている警察官達が胡散臭そうな目を向けてくる。  12周。いや13か? どちらかは知らないが13は縁起が悪い。12としよう。12週目だ。そうして事件現場に私は戻る。倒れた街灯。は車か何かにぶつけられたかのように凹み、中程から折れている。内部には電線がびっしりと詰まっており、折れた所からまるで戦場で撃たれた兵士が傷口から胃腸を垂らすように飛び出ている。犯人は車を使ってマシュー・フレミングを轢き殺そうとした。が、間一髪の所で避けられ、車は電灯にぶつかった。しかし、へし折れた電灯は運悪くマシューの身体の上に落ちてきた。その衝撃と電灯からの漏電により感電死。楽園で起きた悲劇の死だ。  第一発見者にして、この事件の容疑者でもあるハリー・フレミングは、彼の弟でパニック障がいを持っている。兄の遺体を見て――殺したのが彼かどうかは定かではない――動転し、自家用発電の機能を停止させた。  我々が事件に気が付いたのはその後。医者のピーターがマシューの死を確認し、一旦館まで運んだ。館の電話で警察を呼ぼうとしたが停電の影響で通じない。町から離れた所に立つ別荘のせいか、携帯すら通じない。そこでピーターが車で町まで行く事となった。車で行っても3、4時間。歩きなら1日は掛かる。自転車なら……まぁいいか。ともかく車を出そうとしたその時だ。空き部屋のベッドに寝かせておいたマシューの遺体が消えた。それを知らせて来たのはハリーだった。
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