十題噺(地獄の)

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「しかし、なんで皆の前で罵倒したんでしょうね? いや、そもそもなぜ弟の為にパーティを開こうなどと思ったのか。マシュー自身が彼をそんなに嫌っていたならそもそもパーティなんて開かない筈でしょう?」 「最初は弟の為を思っての事だろう。しかし、いざ始まってみると弟の行為が許せなくなった」  弟の事を思って……百歩譲ってそうだとしても、もっと別なやり方があったのではないか? 大勢を招いてのパーティなどせず、兄弟、家族だけで集まっての方が良かったのでは? それならば、例えパニックが起きても客に掛かる迷惑は最小限に抑えられるし、パニックも起きにくいのではないか。 「ハリーは今どうしてます?」 「毛布に包まって簀巻きみたいになっとるよ。まるで5才児だな。恐らく、罪の意識からの逃れだろう」  逃れ……そう。確かに彼は逃れようとしている。だけど、それは罪ではない。この状況その物。兄が死んだという事実から逃れようとしているのだ。 「エマヌエル。なぁ、エマ。そんな事よりも消えた遺体がどこにあるかの方が重要だろう? 頼むから、な? このままだと手口は時空間の歪みなんて警部に報告しなくてはならなくなる」   最後の一言で警部補は笑った。映画『覇王と村娘』の中に時空間を歪めるシーンがあるらしい。一体どこの惑星の話なんだと製作者に聞きたい。もう、死んでいるけど。 「隠したのはハリー自身か、それとも他の誰かが彼を庇う為に隠したのか。怪しいのは医者のピーターだな。可能性としては低いが彼が殺したという線も無きにしも非ず。しかしだな、全ては遺体が見つからないことには……」  怪しいのは医者……? 頭の中が急にクリーンになる。バラバラだった映像、発言、感情のぶつかり合い。断層のように無数に入り組んだそれら全てを読み取り――そうして彼は一つの事実へとたどり着く。  何という事だ。これは偶発的に起きた殺人事件ではない。用意周到に準備されたペテン、あるいは残酷卑劣な――。 「警部補」 「ん? どうした……あ、まさか?」  私は、エマヌエル・ハンスは答えた。 「そのまさかですよ。この事件の真相を見ました」
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