上洛

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総司が井戸で顔を洗うと 横から手拭いが差し出される 「そういえばお土産を買ってきたんだ」 総司が包みを出すと、 そこからは既にいい匂いがした。 「大福ですか!?」 千代子は甘味が大好きだった。 思わず大きくなった声に 総司が笑う。 「部屋で食べよう」 「ですが組長、巡察中に買ってきてもいいんですか?」 千代子は心配だった 自分の事を思ってくれたのは嬉しいが、 その為に総司が隊規を破るのは 嫌だった。 「いいんだ、言ったでしょう?巡察なんて歩いていればいいんだし、」 「聞こえたぞ、総司」 土方であった、千代子は内心 どきりとしたが、総司は まるで動じてなかった 「お前は俺がいると気付いてて言っただろ」 「ええ、よくお分かりで」 土方は特に叱ったりしなかった。 総司が口ではこう言いつつも しっかりやる男だということを わかっていたからだ 「で、悪ィが、千代子ちよっと来てくれ」 「あ、はい!」 「すぐ終わる」 大福を食べようという 会話も聞いていたのか、 最後に言った言葉には 気遣いが感じられた。 世間は鬼の副長だなんていうが、 心根は優しい人だと 千代子は思った
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