上洛

27/33
前へ
/282ページ
次へ
土方に連れられたのは 副長室だった。 「なんか、変わりねェか?」 土方は部屋に入るなり 千代子に訊いた 「沖田組長のことですか?」 「まあ、全体的にだな」 全体的にと言われても 特に思うところはなかった。 「組長はやることはやっています、 口でなんだかんだ言っても、ちゃんと隊務をこなしているし、私は....特に思うところは─────」 そこまで言って千代子は ふと思った、 私に剣の稽古をつけてもらえないだろうか 今日の稽古だって 一人で素振りをしただけだった、 あれでは、力がついたとしても 剣の上達は遅い 「.....なんだ?」 急に話が止まり、 土方が聞き返す。 千代子は言うか迷ったが、 どうせなら言ってしまおうと思った 「変わりはないのですが、ひとつわがままを言ってもいいですか?」 私が強くなって、 新撰組で困ることはない。 寧ろ平隊士によい刺激を与えるのではと 千代子は考えた 「言ってみろ」 土方は、きっと許可してくれるだろう 「組長が巡察に出たとき、私はやることがないんです」 「遊ぶ金くれっつーんじゃねェだろうな」 「いえ....その、やることがないとき、 剣の稽古をつけてほしいんです。」 千代子から出た言葉は 土方からしたら意外なものだったらしい 確かに若い娘が自分から志願して 剣の稽古をするなんて、 変かもしれない 「誰でもいいんです、今日は一人で稽古したんですが、素振りでは上達は遅いから」 土方は考えるしぐさをしたが、 すぐに答えを出した 「....いいだろう、いざというとき、 自分の身は自分で守ってもらった方が 俺達は助かる、」 やはり、土方は合理的に考える人だ こう答えが出ることが千代子にはわかっていた。
/282ページ

最初のコメントを投稿しよう!

169人が本棚に入れています
本棚に追加