上洛

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「失礼します」 「.......どうぞ」 総司の部屋に入ると、 不機嫌顔がこちらを見た 「.......ごめんなさい」 千代子が謝ると くすくすと笑い声が聞こえた 「怒ってないよ、反応見て楽しんでただけ」 千代子はむっとしたが、 すぐにどうでもよくなった。 とにかく今は、 二人で過ごすことが楽しかったから ずっと離れていた分 いま一緒にいれるというだけで 充分幸せだった。 総司といると、心地よい 千代子は総司と過ごす一時が 大好きであった。 それがどういう感情かなんて 考えたことがなかった。 ただ、側にいたい それだけだった 「食べようか、大福」 千代子は土方の部屋から 帰ってくるときに 淹れてきたお茶を それぞれの前に置いて、 総司は大福を並べる。 「いただきます」 二人で手を合わせて 声を合わせる 二人で甘味を食べるときの 習慣だった 「おいしい」 総司が先に一口食べた。 「ほんと.....おいしいです」 千代子も食べる。 ゆっくりとした時間が流れる。 「土方さんと何話してきたの?」 総司は気になっていたらしく、 千代子に訊く 「剣の稽古をつけてもらおうと思ったんです」 千代子が答えると、 総司はやはり意外そうな顔をする、 「......僕が教えるのに」 「だめです、組長が巡察にいってるときにお願いするんですから」 これにも千代子なりの理由があった 「どうして?」 「二人でいるときは、こうして話したりだとか、一緒に寝たりとか、前みたいに過ごしたいんです、」 千代子の返答に やはり嬉しさを覚える。 「そしたら、文句は言えないや」 総司も、千代子と過ごす時間が 好きだった。 だから、千代子の言った 理由を聞いたら、 納得せざるを得なかった
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