上洛

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千代子の顔を総司が覗くと、 ちらりと総司の顔を見やり、 また黙りこむ。 「チコ、眠いのなら部屋に戻ろうか」 総司が問うが、 千代子はまだ黙っている。 総司はどうしたものかと、 千代子の頬を手で包み、 顔を自分の方へと向かせた。 「チコ、部屋へ戻ろう、大分酔っているみたいだ」 目が合っているはずなのに、 こちらを見ていない 自分の世界へ入ってしまったようだ。 それと総司は気づいた、 これが千代子の "酔った"状態だということに 総司は困り果てた こうなってしまった千代子を どう扱えばいいのかわからない いっそのこと 抱えて部屋まで 連れていってしまいたいが、 例え幼馴染みでも 女は女。 総司はそんなことしたくなかった。 だが、そうする他もなく、 大分顔が赤くなりつつある 近藤に一言挨拶をし、 千代子を抱えて部屋を出た、 酔った千代子は、 まるで人形のようで、 抱えてもなにも言うこともなく、 ただ無言で抱えられていた。 「とりあえず、部屋までいこう、 布団に寝かせてあげるから、 きょうはもう寝なさい」 まるで親のような口調で総司は言った。 千代子に届いているかは解らないが、 総司は千代子を部屋に寝かせ、 自分も自室の布団に潜った。 なんだか、濃い一日だった、 一度に色々なことが起きたせいで、 千代子が僕の前に現れた朝が、 とても前のことのような気がする。 一日を思い浮かべ目を閉じれば、 まもなく総司は眠った。
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