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涙を急いで拭き取って、後ろを振り向いた。
声が誰なのか分かってた。
だから、余計に、泣き顔なんて見せられなかった。
「…ああ、大輔」
ぼーっと私の方を見つめる。
大輔は、気付いてると思う。
私と大輔は、ずっと一緒にいた。
だからなんだって理解出来る。
「お前。陣内に何かされたのか?」
「……どうして、春くんが出てくるのよ」
「さっき陣内が一人で歩いてた。
由希奈、今日、陣内と行くって昨日行ってたのに、おかしいだろ」
ほら、そういうところ。
大輔は鈍感そうで、本当はなんでもお見通し。
「ああ…うん。ちょっと喧嘩しちゃって…それで、今、一人なの」
嘘じゃない。ただもう私と春くんは恋人じゃない。大輔の友達。
「由希奈、顔引きつってる。無理すんなよ。ちゃんと言え」
唐突すぎて、表情を失った。
大輔は分かってる。どうして私が泣いているのかも。どうして春くんが一人で学校に向かっているのかも。
大輔は何も言わずに、私を自分の胸に引き寄せた。
私はそこで思いっきり泣いた。
「お前、俺ぐらいには素直になれよ。好きだったんだよな。陣内ののと。本気で。俺、見てて思ってたよ。由希奈、すんげぇ楽しそうだったもん。あいつと話している時。今までのどの奴らより」
大輔の言ってる事が的を射すぎて、余計切なかった。
それを認めてしまうことになるから。
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