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蛇のように曲がりくねった道を、一台のバイクが走っていた。運転している青年は時折木々の隙間から覗く大海原に目を輝かせている。
不思議な青年だ。
黒いヘルメットから覗く髪は、光をも反射するような銀色。着用しているのは白いロングTシャツとジーパンのみで、“青年”と呼ぶには些か色気がない。
青年は海を見ながらも、時折、訝しげな目でガソリンのメーターを確認していた。
限りなく、空に近い状態だ。
早い所、町に出て宿を決めた方がいいだろう。
青年はそう算段を立てながら、少しだけ、二輪のスピードを上げた。
†
牧野心花は、苛立たしげに小石を蹴りながら、堤防脇の歩道を歩いていた。
脳内に響くのは、数分前に彼女に大きなストレスを与えた、クラスの担任の一言。
「まったく! 何が『牧野さんは明日から補講ですよ~』よ! 私がどんだけ、夏休みを楽しみにしてたか!」
心花は、今年で高校2年生だ。つまり、来年は受験。地元の大学を受けるにしろ上京して都内の大学に行くにしろ、どちらにしても、夏休みを犠牲にする覚悟は必要だ。
つまり、今年は高校生活最後の、“エンジョイできる夏休み”なのだ。
それの少なくとも半分の時間は、担任によって奪われてしまった。
分かってはいるのだ。期末試験で赤点スレスレの超低空飛行を決めた自分が悪いということは。
それでも、何かに当たらなければやっていけなかった。
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