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その右京の発言に震える霧都。
その一瞬の出来事を見て、右京の頭にはあることがよぎる。
まさか、道を間違えて今はもう、迷っている最中なのかもしれないということ。
そんな、最悪なことが起きていないことを祈りながら、その事実を確かめるために、もう一度霧都に同じ問いをしてみようとしたとき、右京より先に、霧都が口を開いた。
「…やっと気がついたのか?
全く…気がつくのが遅すぎだ」
少々自慢げに言う霧都。
まさか、最悪な事態が見事的中してしまうなんて思っていなかった…いや、随分思っていたが、この暑さのなかでは、かなりのダメージになったようだ。
「うわー
三途の川の向こうで誰かが呼んでるー…」
とうとう、幻覚が見えるほど暑さに頭を侵食されてしまった右京は、おかしな発言をし始める。
まぁ、ここまで暑いものだ。
頭を侵食されるのは、当然だろう。
ただ、もともと侵食されている右京は、幻覚までもが見える症状になってしまったようだった。
「あ…」
三途の川を渡ろうとしようとしている右京とは違って、霧都は短い声をあげる。
「三途の川より、この町の方がよいだろう」
指を指しながら気力のない右京に言う。
右京は、霧都の指差す方をゆっくりと見た。
瞳に写るのは、たくさんの人々が行き来している見るからに平和そうな町の姿だった。
「ま、町…」
かすかすの声だが、右京は名一杯叫んだつもりだ。
どうやら、小野町のお陰で、三途の川を渡らなくすんだ様子だ。
「多分、あれが今回目指していた町だろう」
霧都が言うと、右京は嬉しそうに町まで走っていった。
まだまだこんな走るような体力は、あったようだった。
二人がこの町まではるばるきたのは、深い深いわけがあったのだ。
その説明は、今から約2~4日前ほど遡ることになる。
* * *
「お野菜持ってくアワビさん♪
追いかけーる
お財布盗んで、皆からのブーイング♪」
今やっている国民的アイドル番組"アワビさん"の歌を歌いながらテレビを見ている右京。
時刻、日曜日の18:30。
アワビさんのやる時間帯だ。
毎週欠かさず絶対に見ている大好きな右京の番組。
ゴロゴロテレビを見ている右京とは真逆に、霧都は本日の夕飯を黙々と作っていた。
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