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いつの間にか雨は止んでいて、近くから川の流れる音が微かに聞こえた。
「そっか! 今の時期は、ちょうど蛍の繁殖期だったよな。それに蛍の住みやすい川も、すぐ近くにあるし……」
梓の言葉で、周囲の音に耳を澄ませる由紀。今まで聞こえなかった、川の流れる音が聞こえるのに気付く。
「本当だ……。 あー、そう言えば私、“天の川[アマノガワ]”って聞いたことある。小さい頃、おばあちゃんとよく遊びに行ったんだ」
天の川とは、天守山の中流を流れる川のことで、正式な名称は知られていないが、地元の人達の間では“天守山の川”ということで“天の川”と呼ばれていた。
透き通った綺麗な水が流れることで有名なこの川。遠方からわざわざこの水を汲みに来る人も多いと聞く。
由紀と二人で、ライトアップされたように輝く杉の木を眺めていたとき、遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。
「居たー! 二人とも一緒だ!」
星二の声だった。梓と由紀が振り返ると、星二とたくさんの執事たちがこちらへ駆け寄ってきた。
「変な光を追って来たら、偶然ここで人影を見たんだ。そしたら、それが梓と由紀で……二人とも無事で、本当によかった」
執事たちは、光り輝く杉の木に腰を抜かしていた。
安心する星二は、泣きながら二人との再会を心から喜んだ。
梓たちがテントへ戻ると、クラスメイトたちの歓喜の声で迎えられた。
そして、不機嫌そうな佳祐がこちらを見つめていた。
「無理しやがって……。俺たちが、どれだけ心配してたと思って――」
「あずくん!」
佳祐の説教が始まろうとしたとき、由紀の声が構わず割り込んだ。
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