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「なんだよ、いきなり……」
照れ隠しに顔を背け、由紀との距離を離した。
あのままだと、自分の意識がどこかへ飛んで行ってしまう気がしたからだ。
由紀も少しだけ顔を赤くしていたが、二人の心は落ち着いていて、どこか心地好いものを感じていた。
空を覆っていた雲は遠ざかり、月の光りが見え始めた夏の夜空に、一筋の星が線を描いた。
「あ、流れ星!」
智の声が、空高く響いた。
それに反応した由紀が、テントから覗き込むように空を見上げ、元気な声を発した。
「あっ、あっちにも!」
気付くと、二人は互いの手を重ね合っていた。冷たい由紀の手が、自らの手を通って温度を伝えた。
こうして、『天守山の肝試し』は幕を閉じた。
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