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「全く、あんときは焦ったよなー!」
駅前のファミレスで、懐かしそうに語る佳祐が、ブラックのコーヒーを口に含んだ。
「ほんとな。今だから笑い話だけど、すげー必死だったのを覚えてる……」
記憶の欠片を思い返しながら語る梓は、冷めてしまったポテトを口へ運んだ。
「しかし、お前よく見つけたよなー。うちの執事たちが総動員で捜して見つからなかったのに……、一人で見つけたらしいな」
「あー、あれは偶然だよ。運がよかっただけ……。お前がくれたヤクタタズ貝のおかげだ」
意味不明な表情で、眉間にシワを寄せていた佳祐が、納得したように口を開いた。
「あー! あの貝殻か。『ヤクタタズ』って、おい。あれマジで高かったんだぞ。ちゃんと大切にしてるか?」
「おう。……きっとあの貝も幸せだろうな」
「はぁ?」
佳祐がその言葉を発したとき、すぐ近くのファミレスの店員が『いつまで居るんだ』と言うかのような目でこちらを睨んでいるのに気付いたので、さっさと会計を済ませて店を出た。
会計はもちろん佳祐が、梓の見たことがないカードで支払っていた。
どこのカードだよ。見たことねーぞ、そんな真っ黒なカード……。
店員も最初は戸惑っていたが、知ったふりをしながら、慣れない手つきで会計処理を終わらせた。
外では星が輝く、清々しい夏の夜空が広がっていた。
ちょうどあのときの、星いっぱいの夜空を思い出させるように。
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