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一瞬だけ時が止まった気がした。……なぜ俺が主役? いや、なぜ由紀が一緒?
隣の由紀の姿を見たとき、俺と同じことを考えているのだと感じた。恥ずかしそうに顔を赤らめ、静かに俯く由紀。
「よかったな、梓」
後ろから佳祐の声が聞こえた。
「バ、バカ。……ってかなんで俺と由紀なんだ?」
佳祐から鬼壁へと視線を移した。
教室に広がる『お似合いじゃーん』と茶化す声を含むざわめきは、鬼壁の言葉が黙らせた。
「おー、お前らいちいち喋るな! 主役の人選理由は一つ。……顔だ! こいつらの顔が適材適所だと思った。それだけだ! 文句あるやつぁいるか?」
顔って、おい。文句は普段から山ほどあるが、下手な言葉で由紀に不快な思いにはさせたくない。それに、由紀は俺と一緒なんて嫌だと思っているはず……。そう思いながらも鬼壁に言葉を返せず、視線をそらした。
「よし! 決まりだ。その他の脇役はテキトーに決めとけ。おし、以上! 解散!」
そう言うと、鬼壁はみなの視線に構わず教室を去って行った。
あとはテキトーって……。小さなため息を着き、無意識に隣の席へ視線を向けた。偶然にも由紀と目が合ったが、由紀の軽い愛想笑いに終わり、言葉を交わすことはなかった。
曖昧な状態で話し合いが終わってしまい、煮え切らないだけの気持ちが残った。
あと三週間で高校生活最後の学園祭が始まるってーのに、何やってんだ……俺。
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