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梓は教室の窓から見える旧校舎に目をやった。
旧校舎とは、15年ほど前に廃校となった校舎だ。現在使われている本校舎のすぐ近くにあるのだが、本校舎ができてから立入禁止となっている。
噂によると、利用する機会もないため、近いうちに壊されるらしいが、こんな形で使うことになるとは。
そんなことを考えていたとき――
「うちらも劇の練習しよっか」
隣でお化け屋敷に使う提灯[チョウチン]の飾りを作っていた 川守 すみれ[カワカミ スミレ]が立ち上がった。
キャスト、兼副監督の彼女は、劇に対しての熱血的な意志が認められ副監督となった。台本やら衣装やらはすべて彼女が仕切っている。
今日は友宏が鬼壁に呼び出されていたため、自動的にすみれが監督をやることになっている。
「ああ、そうだな。えっと……、由紀どこにいるのか知ってる?」
教室を見回したが由紀の姿が見えなかった。17時から劇の練習をすると伝えてあるのに、ジュリエットがいないのでは練習にならない。これでは『ロミオとジュリエット』でなく『ロミオ』だ。
時計は17時を指していた。
「買い出しに行ってるんじゃないかなー。すぐ来るでしょ。他のキャストは揃ってるから、とりあえず始めよーよ」
「お、おう……」
ジュリエットなしで始めようという彼女の意志に感服した。
「劇の練習行くからキャストの人たちをお借りしまーす!」
すみれが元気よく声をあげた。お化け屋敷担当の佳祐が『了解!』 とサインを返したので、俺を含む10人ほどのキャスト陣はすみれの後に続いた。
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