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毎日の劇の練習は一部を除いてスムーズだった。友宏監督や、すみれ副監督による適切な指導のもと、キャスト一人一人の演技に磨きがかかった。
ただ、梓の演技は関係者含むキャスト陣たちの度肝を抜いた。かなり悪い意味で……。
台詞の棒読みさや、演技力において、ずば抜けて劣っていたし、これでは幼稚園のお遊戯会のようなものだった。
自分でも少し苦手だとは思っていたが、周囲の視線は冷め切っていた。
今日も、諦めた様子で梓の演技を見ていたキャストたちは、堂々たるロミオの姿に声を失った。
「『おおジュリエット! ……なぜあなたはそんなに美しいのですか』」
梓は、いつもの演技とは比べものにならないほどのパフォーマンスを見せつけたのだ。声の張り、演技、表情……全てが完璧だった。
淡々と台詞を読み上げる梓を、他のキャスト陣も満足げに見つめていた。
そのとき――
「すみれちゃんごめん! おにぎり先生に呼ばれちゃって……次のシーンから入るね!」
申し訳なさそうな表情を浮かべ、スタスタとステージに向かう由紀。
「おかえりー。じゃあもう一回。『ロミオと再会する』シーンからね!」
一時、練習が止まったが、すみれの言葉により何事もなかったように練習が再開された。
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