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由紀が練習に加わると同時に、梓の演技が幼稚園並となった。
言葉を向ける相手の存在。そう、目の前に由紀がいるだけで、演技力はプロからカスへと成り下がる。由紀に対するギスギスとした感情がそうさせるのだろう。
この変化に副監督様は耐え切れず、『カット!』 と叫んだ。
そのまま梓に歩みより、鋭い目つきで、長身の梓を覗き込む。
「梓君さー、喧嘩売ってるのかな?」
今にも怒りで爆発しそうな感情を無理矢理押し殺して、殺気立つ笑顔を浮かべるすみれ副監督。
これほどまでに怒りに満ちた笑顔を見るのは初めてだった。
こ、恐い……。
殺気を察知した体に寒気を感じた。
「……わ、わりぃ。もう一回やらせてくれ……」
だが、何度やっても結果は変わらなかった。それに比べ、由紀の演技は超人的だった。
文句の付けようがないほどの演技力、風格あるオーラ、透き通るような声……ステージ上に凛と輝く主役の姿がそこにあった。
すげぇ……。さすが俺が惚れた女だな。
自分に感心していた。そのとき、身に覚えのある衝撃が後頭部に炸裂した。
「痛っえぇーー!!」
衝撃が残る頭を上げ、後ろを振り返ると、マサムネを右手に持った鬼壁が突っ立っていた。
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