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「ただいまー!」
元気な声を発しながら鳥居をくぐる二人組の姿が増えてきた。
一番に出発した智のペアは30分程で帰ってきた。出発したときよりも二人の仲が良くなっているのは気のせいだと思うことにした。
到着した人から順に、執事さん達が用意したテントの中でくつろいでいた。どのペアも楽しそうに話している。
入口の鳥居には由紀の姿があった。
「行こっか」
「……うん」
由紀の懐中電灯を持つ手が少しだけ震えている。怖いのだろうか、いや正直俺も怖い。
できるなら全力で駆け抜けて終わりにしたいのが本性だ。
「お気をつけて」
心から笑ってないのが丸分かりの笑顔で送り出すニタさん。山田さんといつ交代したんだろ。
そろそろ順番だな と思っていたとき、後ろから愛が歩み寄ってきた。
「梓くん。次だよ? もー緊張してきちゃった。帰ってきた人たちの話聞いてたら恐くなってきたし……」
「え?」
思わず声が出てしまった。
「なんかね……出るらしいよ。はっきり見えないらしいんだけど、ぼんやりとした薄暗い光りが……――」
おいおい、まじかよ。
「俺、帰っていいかな?」
その言葉に笑いながら答える愛は、この状況を楽しんでいるように見える。
「だめー。 私も見たいもん。意外と綺麗なんだって」
「へぇ。できるなら見れなければいいな――」
そんな話をしていると、10分という短い時間が、もうすぐ過ぎようとしていた。
そろそろ行くか……。やだなー。怖いなー。帰りたいなー。俺、情けないなー。ははは。
馬鹿らしい独り言は終わりにして鳥居に向かおうとした、そのとき――
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