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その陰は星二だった。
全身びしょ濡れで、唇は青ざめていた。顔色は悪く、身体の芯から冷えきっているようだった。
一緒に居たはずの由紀の姿はなかった。
「星二? ……大丈夫か?」
友宏がすぐに声をかけた。同時に執事さんたちが分厚いタオルで星二の身体を包み込む。
その場にいた全員が星二に注目し、耳を傾ける。星二は凍えた声でゆっくりと話しだした。
「俺は平気。……由紀さんとはずっと一緒だった……けど、いきなり酷い雨になって、雷がすぐ近くに堕ちたとき……由紀さんが慌てて走りだして……、俺、ずっと探したんだけど見つからなくて――」
話している途中だったが、突然佳祐の声が遮った。
「ニタさん!」
「はい。承知しました!」
佳祐の声にすぐ反応し、ニタさんを中心に執事たちが動きだした。
総動員での捜索が始まった途端、星二が再び声を発した。
「俺も行く。俺がしっかりついていればこんなことには……。一緒に行か――」
「行っちゃダメだ」
ずっと黙っていた梓が、星二に言葉を向けた。梓の顔は血の気が退いて、困惑しきっていた。
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