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五分くらいは歩いただろうか、次第にその大きな杉の木が全貌を現した。
その木の周囲には、草木は生えておらず、周囲の養分を独占するかのように堂々と存在していた。その太く、力強く伸びた茎により、土に掛かる雨を遮断していた。
懐中電灯の光が辺りを照らしたとき、視界に小さな影をとらえた。
木の下にしゃがみ込む小さな人影――
「……由紀?」
喉から出た微かな声が、その小さな影に届いた。
ゆっくりと顔を上げ、涙で潤んだ瞳が梓の姿を確認した。
「……あずくん」
雨の音で消えかけた声と共に、由紀の瞳から涙が溢れた。泣きじゃくる由紀の姿は、いつもの明るく元気な由紀からは想像できないものだった。
梓の身体は自然と動いて、由紀に厚手のタオルを覆いかぶせた。握りしめていたタオルの外側は少し湿っていたが、内側はまだフカフカで、寒さを防ぐには十分だ。
「よかった。……本当によかった」
梓の安堵の声に、由紀の泣き声は更に大きくなった。それまで留めていた何かが破裂したかのように、大声で泣きだした。
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