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激しく降り続いていた雨は少しだけ弱まっていた。雨の音意外には何も聞こえない。
ザァーっという雨音に慣れてしまった耳には、森の静寂さだけを伝えていた。
由紀の隣で、木に寄り掛かるように立っていた梓を見て由紀が声を発した。
「あずくんって、……やっぱりあずくんだよね」
「……え?」
不思議そうな表情を浮かべる梓に、いつもの笑顔を見せた由紀。
さっきまで泣いていた由紀に元気が戻ったのはよかったが、言葉の意味がよくわからない。
「それ……どういう意味?」
「だってさ、格好良く助けに来てくれたところまではよかったのに……『俺も帰り方がわからない』って。本当にあずくんらしいよね」
楽しそうに話す由紀の表情は、いつもの明るくて愛らしい笑顔だった。
……その話しかぁ。そりゃそーだよな。テントから抜け出したときは無我夢中で、タオルと懐中電灯しか持ってこなかったから……。
「うぅ……ごめん」
「でも、本当にびっくりしたよ。夢でも見てるのかと思った。……ずっと『泣かない』って決めてたのに、あずくんが私の名前を呼んだとき、すごく嬉しくて――」
話している中で、由紀の寂しかった想いは痛いほど伝わった。たった一人、暗闇の中をさ迷う寂しさは、どれ程の物かを。
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