165人が本棚に入れています
本棚に追加
「雨、止まないね」
由紀が小さく呟く。
「……うん」
ため息を漏らしながら、乾いた土にゆっくりと腰を下ろした。すると、尻の辺りに痛みを感じた。
……ん?
ポケットに手を突っ込み、何かを取り出した。
手の上で、微かに輝く貝殻。
自分でも気に入ってたので、持ち歩くことにしていたが、今は暗くてよく見えないので、由紀に自慢するのは今度にしようと決意した。
“奇跡の笛”かぁ。本当にそうならいいけど……。
そう思いながら貝殻に息を吹き込んだ。
スー……。
虚しい音が聞こえるだけだった。
なんだよこれ……音も鳴らないし、何も起きないし! ってか持ってるとチクチクして痛いし……。
一人で貝殻に八つ当たっているる梓に気付いた由紀が、不思議そうに声を掛けた。
「それなーに?」
懐中電灯で梓の手元を照らして、物珍しそうに貝殻を見つめていた。
ヤクタタズ貝だよ、
と心の中で呟いた。
「これー、佳祐から貰ったんだけど……」
最初のコメントを投稿しよう!