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「ちょっと見せて? お願いっ」
黙って、手に持っていたヤクタタズ貝を由紀に渡した。
こんな貝殻……。
すると、懐中電灯で貝殻を照らし、じっくり観察していた由紀が、なにか閃いたように声を発した。
「これ、ここから吹くんじゃないかな。……ちょっと吹いてみてもいい?」
「どーもどーぞ」
ヤクタタズ貝に失望しきっていた梓は、即答で返事を返した。
由紀は息を整えて、ゆっくりと息を吹き込んだ。
ピーー……。
小さな音なのに、雨の中をすり抜けていくように、綺麗な音が森中に響き渡った。
梓の発した空虚な音とは反対に、透き通ったような立派な音を出してみせたヤクタタズ貝。
「この笛の音……すごく綺麗だね。なんか、癒されるというか――」
嬉しそうに話す由紀に、驚きを隠せない梓。
は? ……魔法使いが出てくるあの某人気映画で、『杖は持ち主を選ぶ』とか言ってたけど、笛までもが、生意気に持ち主を選びやがって……。
そんなことを考えていると、由紀が突然驚きの声をあげた。
「あずくん! あれ……」
由紀の指差す方に視線を向けたとき、梓は驚きのあまり言葉を失った。
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