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森の奥から、ぼんやり白い輝きを放つ光の塊があった。その光はゆらゆらと空中を漂い、次第にこちらへ近づいてくる。
あれが 北条さんの言ってた“綺麗な光”ってやつか。
って、呑気に感心してる場合じゃなくて。ってか、徐々に近づいてくるんですけど……。
気が付くと大きな杉の木を囲むように、全方位から迫ってくる“その光”に、梓は困惑しきっていた。
頭の中は、軽いパニックを起こしていて、肌寒さと恐怖で身体の振るえが止まらない。
そんな中、由紀が笑顔で呟いた。
「あずくん。あれ……蛍だよ」
「……へ?」
由紀の言葉で、梓は我に返った。目を凝らしてみると、小さな無数の光が集まって、形を成しているように見える。
「本当だ……。蛍だ。ってか、綺麗だなー」
次々と集まる蛍は、まばゆい光を放ちながら、その木の枝へと停まっていく。一つ一つの光は弱いが、集まると蛍光灯のような光となっていった。
「こんなにたくさんの蛍が見れるなんて、私たち運良すぎだよ! この笛のおかげだね」
その言葉に、静かに頷く梓。
「そのヤクタタズ……じゃなくて。その貝殻の笛、由紀にあげるよ」
「本当に?」
「うん。……俺は選ばれなかったから」
由紀は意味がわからないだろう。自分でも、言ってて恥ずかしく感じた。案の定、首を傾げる由紀。
「よくわからないけど、ありがと。大切にするね」
嬉しそうに貝殻を見つめる由紀は、心から喜んでいるようだった。ヤクタタズ貝も俺じゃなくて、由紀が持ち主となって喜んでいるだろう。
元々の持ち主である佳祐の、女好きという性格が付着している貝殻なのだろうか……
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