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「…よしっと。」
もうこの家に戻ることはない。
こんな見た目だけ着飾って中身は空っぽの家なんて。
トランク1つでまとまった私の荷物たちは
思い出と言う名の重みはなくて。
小さくまとまっている。
「行ってきます。」
なんてうわべだけの挨拶をして
誰も見送りに出てこない家を背にして歩き出した。
まだ寒さが残る3月の終わり。
駅のホームは閑散としていて平日の始発はこんなに空いているものなのかと思いつつ
いつもとは逆方向の電車に乗った。
16になる春にこの家を出ようと思ったのはいつだっただろう?
無意識にそう思ってたのかもしれない。
父親は医者で母親は有名大学の教授。
そんな両親のすれ違いの日々は同然な必然であって。
会っても円満に話をするわけでもなくどちらともなく書斎にこもる。
そんな毎日のなかに両親からの愛情を探せと言われても
まだ幼かった私にとって
それは困難だったに違いない。
そんな今となってはどうでもいいことを
車窓の外の景色が緑が多くなってくるのを見つめながら思っていた。
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