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「魔王の、側近?
しかも一人娘だって……?」
アルはレオンをかばう様にやや前へ出ながら聞き返す
「信じる信じないは貴殿方で判断願いますけどね
貴殿方には……」
私は、彼女の余裕綽々な笑顔で言葉を紡いでいる中、彼女の足元を注視し、吊り上がった口角から言葉を漏らす様にして静かに呟く
「……余所見とは随分余裕ね
それが何だって言いたいの?」
氷術『フリージング・ジャベリン』
私は彼女の言葉を割く様に言い放って左腕を挙げ、私の周りに太く、長い氷の槍を三つ形成し、左腕を勢い良く下ろして彼女の足元目掛けてそれを高速で射出した
その氷の槍は勢い良く彼女の左右後方と足元に着弾、石畳へと突き刺さり、彼女の視線が一瞬で氷の槍へと集中する
私の狙い通りに、だ
「えっ……?」
「アル、レオンッ!
下がってッ!」
私は彼らに後退の合図を出すのと同時に次の魔法を解放する
炎術『バレット・フレア』
私は右手をかざし、赤く輝く圧縮されたボール状の熱のエネルギー塊を先程と同じく三つ形成し、こちらも彼女の足元目掛けて放つ
それはまるで強く引き絞った矢の様に速く、力強く着弾し、氷の槍を粉砕すると同時に、一瞬にしてそれを気化させ彼女を中心に凄まじい爆音をあげて水蒸気爆発を起こし、超高熱の蒸気が彼女を包み込んだ
爆音に紛れて彼女の断末魔が微かに聞こえたのと、前衛の二人が後退したのを確認し、私は準備した最後の魔法を解き放つ
凍術『ダウンバースト・フリーザー』
寒冷地に棲む生物ですら死に追いやる程の氷点下の暴風
これによって先程の爆発で広がった高熱の水蒸気を一斉に彼女へ向かって圧縮させる
更に急激に冷凍されたそれは無数の氷の針となって、彼女の全身へと突き刺さっていく
「くぁ……ッ!?」
彼女の身体は薄く凍り付き、無数の氷の針によって流血、その血も彼女の周りを包む氷点下の空気が凍らせた
冷却された空気が霧を作り出し、それが漂う中心で彼女は立ったまま口を閉ざしてピクリとも動かなくなる
「……ま、ざっとこんなもんね」
彼女の周りを覆っていた霧は徐々に晴れ、次第に彼女の姿が露となり、彼女が手を開き、そして握る動作を繰り返しているのが目に入った
「……なるほど、なるほど」
私の見間違いか?
いや、違う
彼女はまだ確実に生きている、白く息を漏らしながら、あの憎たらしい笑顔を再び浮かべ、ぬるりと背を伸ばしたのだ
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