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「それなら、今度はこれでどうかなッ!
可愛らしくしてたって、手加減は!」
まず、先行して進むのは金髪の槍使いアル
彼は大槍を振るい、先端の刃を左右に展開させた
その十字を画く刃は突くだけでなく、薙いで斬る、引っ掻けて倒す等の万能性を秘めた物、それをまるで小枝の様に振り、軽く、最小限の動きで彼女目掛けて素早く凪ぎ払う
「まだまだ、その程度では遅いのです……」
彼女はそれに直ぐ様反応、大きく宙返りをして、着地に合わせたバックステップし、ゆっくりとその背に抱えた細身の剣を左手で抜く
だが、あろう事か彼女はその剣を直ぐには構えず、顔の前に立てて黙想し始めた
二人が襲い掛かっていると言うのに、余裕綽々な様子で祈りを捧げたのだ
その様子は、魔王から騎士の称号を受けるだけの者である事に疑問を感じさせる
いや、余裕があるからこその態度と言われれば、納得が行くが、彼女のそれから見て取れるそれは、明らかな手加減をされている事を私達に理解させた
「止まってる余裕が、あるのかよォッ!」
レオンが怒号を発すると同時に高く跳躍した彼は、彼女目掛けて全体重を乗せた大斧を力任せに降り下ろす
その溢れ出る様な殺気は先程からの怒りによって増幅され、よりその刃に狂気を乗せた
今の彼はもはや狂戦士とも形容できる姿だろう
だが、彼にとってはそれが仇となった
彼女はゆっくりと開眼し、その狂気をまるで流れる水の様な、美しい舞いとも言える太刀筋でいなし、斧と剣の間に綺麗な火花を散らせながら、それを地面へと落とす
彼女はそのまま体勢を崩さずに相も変わらぬ笑顔で着地寸前のレオンへと吸い込まれる様に、鋭く、強烈なミドルキックを叩き込み、アルが居る方へと吹き飛ばした
「ぐかッ!?」
「レオッ……
うぉぉッ!?」
凄まじい勢いで吹き飛んでくるレオンをアルは何とか受け止めるが、あまりの衝撃で私の前まで二人纏めて転がって来てしまう
もはや彼らに情けないなどは言えない程、私達と彼女には実力差があった
彼女は二人の姿を見ながら余裕そうに剣を振り払い、右手を腰に当て、半身になって私達の方へ切っ先を向けていた
いや、彼女の眼中に二人の姿は無い
切っ先は明確な意思を持って私の喉へと向けられている
一瞬、彼女が私へと向ける笑顔と眼光が背筋にゾッと悪寒が走らせたが、そんな事でたじろいでいる暇は私にはない
二人が作ってくれた時間を無駄にする程、私が臆病になる訳にはいかないのだ
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