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私達は自らの目を疑う
彼女を覆う氷にピシリと音を立てて亀裂が入り、そこから勢い良く水が噴き出し始めたのだ
いや、もっと正確に言うなれば
彼女を中心に、彼女を覆う氷が溶け出して水となり、あろうことか、それが瞬時に沸騰して水蒸気へ変化する
それによって上昇した圧力によって彼女の周りに作られた水が氷の柱に出来たヒビから噴き出しているのである
もしや彼女から発せられる熱で溶けているのか?
氷には次々亀裂が入り、そして砕け散る
彼女は沸騰した水と湯気に包まれながらゆっくりと立ち上がった
そして、軽く咳き込むと私を見詰めたまま無表情、いや、鋭い眼光、殺気を帯びた眼差しを私に向けながら呟く
「一度ならず二度までも……
なるほど、貴女は他の小物に比べてとても厄介です
認識を改めなければなりませんね」
彼女は一瞬俯いたかと思うと、再びじわりじわりと口角を吊り上げていく
「戦士級や勇者級の方々ならばまだしも、魔術士である貴女にこれを使うのは気が引けますが
致し方ありません」
彼女が再び呟くとその手に持った剣が淡く、蒼い光りを帯びる
私達は一瞬で感じる
その剣から放たれる、美しく優雅な光は、強烈な死への恐怖をもたらした
「これ程の実力、敬意を評して名を聞きたい所ですが、貴女を残しておくのは得策では無さそうですし
残念ながらもうフィナーレです!」
彼女は私一人に狙いを定めて剣を突き出し、右手を腰に当てて構え、私目掛けて彼女が目にも止まらぬ速さで跳び出した
それはまるで、矢の様に
私の前に居た二人の反応も間に合わない、剣は確実に私の首を跳ねると予告し、ただひたすらに真っ直ぐ私へ向かっている
私はこの絶望的な状況に死を覚悟した
私の墓場はここかと、諦めにも近いモノを一瞬でも感じ、思わず目を瞑ってしまう
あれに貫かれれば痛みすら伴わず、首が吹き飛ぶだろう
死を感じた直後は良く頭が回ると言う
しかし、それは逆に忘れていた筈の私の死への恐怖を煽った
詠唱出来ている魔法もなく、モーションの少ない魔法すら彼女の剣が私の首を貫くまでには間に合わないだろう
それどころか、彼女にそんな魔法も通じるだろうか
否、あの六つの魔法も耐えきった彼女にはモーションの少ない弱々しい魔法が間に合ったとしても、それは最早無意味だ
考える事すら放棄しようとした、その瞬間
この広場に大きく美しい声が響いた
「そこまでよ、レイチェル」
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