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その声に彼女の剣がピタリと止まる
私の首を剣が貫く事は無く、僅かに紙一重、その切っ先が私の首筋を睨み付けた
私の首には僅かの傷も付ける事無く、彼女は剣を下ろし、玉座の横へふわりと跳ぶと、直ぐに剣を鞘に納めた
刹那の事に滲み出た脂汗がこめかみを、頬を通り、顎から垂れる感触が伝わる
私は恐怖から解き放たれた瞬間、思わず咳き込んだ
気付けば私は息を荒げ、肩で呼吸をしていた事に気付く
今はひたすらに安堵し、私の震えた瞳がぼんやりと彼女の姿を捉えた
私の首を狙った彼女は、いかにも悔しげな表情を明確に私だけに向け、軽く舌打ちをしたのが分かる
そんな彼女も先程の一言からは大人しく目を瞑り、その声の主を待つ様にして静かに佇んでいた
体勢を崩していた二人も立ち上がり、この異様な雰囲気に辺りを見回している
レオンは私の表情を伺うと、少々安堵した様に溜め息を吐き、目を瞑っている少女に目を向けた
彼なりに私に気を使っているのだろうが、その彼の静かな怒りの矛先が少女へ向いている事に変わりはないのだろう
「大丈夫かアリカ?」
「ええ、なんとか……」
私に声を掛けたアルもこめかみから脂汗を垂らしながらもこちらを見て安堵の息を漏らす
「とりあえずお前が無事なら体制は立て直せる
いつでも動ける準備はしておけ」
「言われなくても
アンタも巻き込まれない様にしなさいよ」
彼は私の返事にニッと笑い、レオンと同じく少女へと視線を向けた
そして、暫しの静寂
それを打ち破ったのは、この張り詰めた空気の中、ゆっくりと近付く足音
カツン、カツン、と乾いた音
ヒールの音だろう
先程の声も女性のものである事を考えると納得がいく
やがて、部屋の奥の扉が開き、声の主が現れた
緩くふわりとしながらも、艶のある漆黒の髪
吸い込まれる様に深く、黒い黒曜石の様な瞳
真珠の様に艶やかで色白な肌
紫色のジャケットに、デニムのホットパンツに
左足だけをを覆う様な腰巻きとロングブーツ
そして、表地が黒く、裏地の紅いアーマー付きのマント
一瞬で彼女が誰か
皆は理解した
「ようこそ我が城へ、勇者さん
私がこの城の主……
貴方達が呼ぶ所の
金色の姫君、或いは破壊の女王
──そして、魔王
名をヴァレンシア・クーネロイスと言うわ」
彼女
魔王ヴァレンシア・クーネロイスは私達の前に立ちはだかり
優しく微笑んだ
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