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「この女が……
魔王だと……?」
彼女を見るなり、レオンが先程蹴られた腹部を押さえながら咳き込み、そう呟く
その表情は痛みに歪み、痛みからか何度かむせていた
同時に、アルも槍を構え直し、彼女をじっと見詰めている
「えぇ、紛れもなく」
彼女は玉座の前に立ち、我々を前にしても妖艶に含みを持たせた笑みを絶やさない
そして、振り返る事無く自らの後で佇む金髪の少女に話し掛ける
「レイチェル、下がって構わないわ
あぁ、そうね……
ついでに紅茶でも淹れておいてくれるかしら?
きっとこれが終わったら喉が乾くから」
「はっ、承知致しました」
彼女の令に、少女は軽く頭を下げると再び自らの影に消える
その間際、少女は再び私に鋭く悔しげな視線を送っていたが
「ふぅん……
見た所、ここに来るだけの事はありそうね
情報通りね、ウチの斥候達も優秀優秀……
良い仕事してくれるわ」
彼女は私達を見渡し、変わらぬ微笑みを浮かべている
「これなら、久々の運動にも丁度良さそうかしら?
まぁ、あんまり私が動く事も無いでしょうけど」
だが、私達は共通してある疑問を感じていた
「さて、まずは何方から来るのかしら?
ボーッと突っ立ってるだけだと、張り合いも無いでしょう?」
彼女が、本当に魔王なのかどうかである
「そっちのお嬢さんは良いとして──
前の二人はしっかりやる気みたいだし
準備が出来たら教えて頂戴な?」
その要因は、彼女から一切覇気が感じられないからだ
「はっ……
ははははは……
何の冗談だ?
嘗めてンじゃねぇぞ、糞アマ……」
「威勢も良し
でも、それだけならとっととお帰り願いたいのだけれど
ほら、撃ち込んで来なさいな、勇者さん
私の首はここよ?」
乾いた笑いと共に再び声を上げるレオン、怪しげな笑顔を浮かべて喉元を指差しながら挑発する魔王
こちらから彼の顔を確認する事は出来なかったが、恐らく、彼の性格からその顔は鬼の形相をしているだろう
声色も怒りに満ちている
「ふふふ……
私から行くのは流儀じゃないの
どうぞ、貴方達から掛かっておいでなさいな
ちゃんと受け止めてあげるから」
彼女は相変わらずの笑顔で、怒る彼を挑発し続ける
それを見ていたアルも徐々に焦りを感じ始めていたのだが、ついに彼は自らの斧を力任せに地面に突き刺し、クスクスと笑っている彼女へ向けて吼えた
「さっきっからギャアギャアと……
俺の神経を逆撫でしやがって……!」
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