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彼がその怒りに任せる様に右手を掲げる
そして、声を荒げ彼女へ向けて言い放った
「遊びでやってんじゃ……
ねぇぞぉぉぉぉッ!」
光術『フラッシュ・ゲイル』
次第に彼の掲げた右手が強い光りを放ち、そのまま手を降り下ろす
それに合わせて一瞬、魔王が身構えたが、彼女は溜め息をついて元のリラックスした状態に戻ってしまった
そして、そんな彼女の様子を見る間も無く右手を横へ振り払い、その十字の軌跡を辿る様に光の刃が形成されると、その直後、光の刃が光速で放たれた
だが、その刃が彼女に届く事は無く、それは彼女の眼前で反射する様に彼の足元に突き刺さり、鋭利な傷を付けた
彼女はそれを見て再びクスクスと笑うとマントを翻し、両手を腰に当てて一つ溜め息を吐いた
余裕の塊とでも言えるその態度は私達の意思を削ぐには十分で、彼女との実力差はこの時点でも明白だ
今のはレオンが使える攻撃魔法の中でも上位に当たるもの、無論、私の使う数々の魔法に比べれば大した威力ではないが
発動スピードや、単体に対しての効果を考えると、装甲のある相手ですら用意にダメージを与えられる筈のものである
それが全く効かない処か、訳も分からず反射されたと言う時点で、私の理解の範疇を飛び越していったのだ
一体どんな防御手段があるのか、魔法障壁ではこんな芸当は出来たものではない
彼女は何かがおかしい
私達が、特にレオンがその理解し難い状況に驚く中、彼女は微動だにせず笑みを浮かべたまま口を開く
「ふふっ
少し驚いたわ
流石は勇者
──と言いたい所だけれど、残念
今の私でもその手の魔法は効かないわ
まぁ、でも、及第点って所かしら」
余裕そうにそう語ると、彼女はゆっくりと続ける
「さ、貴方達もそろそろ準備が出来たでしょう?
散々挑発させて貰ったけど、一発良いのを頂いた事だし
私も魔王として、貴方達に誠意を持ってお相手させて頂くわ
そうすれば……
貴方達は確実に私を魔王として認めざるを得なくなるのでは無いかしら、ね?」
変わらぬ妖艶な微笑み……
圧倒的な余裕
原因不明の防御手段
そして、彼女がまだ準備すら終えていないと言う旨の発言
それらが、次第に私達を恐怖へと誘う
ただひたすらに、私達は本能から来る動物的な恐怖を感じ始めた
それを彼女は目を瞑って笑う
「覚悟は、良いわね?」
そして、彼女はその一言と共に
ゆっくりと艶めく長い黒髪を
ふわりと掻き上げた
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