The first contact

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その瞬間に私達は純粋な恐怖に包まれた 彼女のその艶やかでふわりとした漆黒の髪は、毛先から流れる様にさらさらとして真っ直ぐな髪に、そして美しい金色に染まり、神々しい光を放つ その黒曜石の様に深く吸い込まれる様な深く黒い瞳は全てのモノを燃やし尽くす焔の様に、揺らめく緋い瞳に変わった 同時に、彼女からはあまりにも禍々しく、あまりにも神々しい何か、異様な力が噴き出し、私達は否応なしにそれに呑み込まれる 純粋なその力の奔流に私は吐き気さえ覚えた それどころか、立っている事すらままならない それ程に純粋な力に…… 私は今まで経験した事の無い狂気を感じ、それを畏れているのに気付く 身体中を蝕み、縛り付ける王たる者の覇気 目の前に立つ者が、確実に魔王であると強制的に認識させられた その 何時間にも 何日にも 何ヵ月にも 何年にも 永く感じられたその時は 僅かに一瞬の事だ 「……さぁ、これで分かったでしょう?」 彼女が浮かべていた妖艶な笑みの正体 「私が紛れもなく、魔王であると……」 それは、王たる者の 「さぁ『何も知らない憐れなお人形』さん」 単なる絶対的な余裕だったのだと…… 「こんな無意味な世の中に別れを告げさせてあげる」 身を以て思い知らされた あぁ、なんと言う事だ 私は、私はなんて者を相手に首を獲ろうなどと考えて居たのだろうか 無理や無謀と言う言葉では表せられない絶対的な力量差 私の闘志を刈り取る絶望感 手が震え、脚が震え、視界が震える 今すぐ逃げ出したい気持ちで心が支配された しかしだ 一つ、たった一つだけ、私の背を押す何かが居た どす黒い何か 先程門前で感じたプレッシャーの様なもの 私の中で、何かが吼える 目の前に居る者が化け物である事を喜んでいる私がそこには居たのだ 刈り取られた闘志が、別の何かにすり変わる様にして私の心をどす黒い何かが支配しようとしている だが、抗う気持ちはない その気持ちに身を任せて、私は前の二人を見据える事が出来たのだ 二人はじっと彼女を見詰めている そう、この止まった時の中の様な空間でも、彼らは膝を落とす事なくしっかりと金色に輝く魔王の姿に立ち向かっているのだ あぁ、それならば 私も膝を付けられはしない 私と言う化け物が あの化け物の喉笛を咬み切るまでは 死んでも死に切れない その為には、あの魔王に、私は立ち向かわねばならないのだ 脚を、手を、動かさなければならないのだ
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