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幾万幾億の光芒が辺りを照らす。
光芒の中央に佇む男の周囲では、常人には理解不能な文字の羅列と円状の魔術陣、またそれらから形成される極大の球体達が激しく周囲の地形を変化させている。
それら全てに共通する特徴は、他者を破滅させる特性を帯びている事だ。
その男に迫るは、白のスーツとシルクハットを着込んだ男。
男は個人にして、数万はくだらない戦力を率いている。その全てが魔術による仮初めの肉体と、彼が手を下した本物の魂が融合して誕生した戦奴(せんど)達だ。
戦奴達は一斉に魔術を展開している男を襲う。どれほど武勇に秀でていようと、物量の二文字の前には沈黙する。
ただの人間ならば
男は周囲の球体に指示を出し、戦奴に突っ込ませる。
球体は瞬時に戦奴の仮初めの肉体を原子に還元し、魂を解放する。
解放された魂達は逃げ惑うが、スーツの男の背後に傲然と存在する巨大な扉から放たれる鎖に捕われ、等しく扉の内側に回収された。
「万物よ、原初の姿を晒せ《reduction》」
男が右腕を構え呪文を唱えると、魔術陣が形成されその中心から光が放たれた。
それは男は疎か、扉すら軽々飲み込む程の大きさだった。
「煉獄よ、この地に地獄を《soilinfernal》」
スーツの男の前に全てを焼き尽くす焔が地より溢れ、光すら焼き払おうとする。
焔に呑まれ目的を果たせなかった光が、焔ごと周囲に拡散した。
突如、空から数えるのが馬鹿馬鹿しくなる程の鉄の雨が飛来する。
この地を浄化する目的で放たれた雨は、一つのポイントを軸に集まり、一つの槍を形成する。
それは、戦場に相応しくない少年の手に渡った。
「持ち主の元へ帰れ」
少年が思い切り投げると、地を、風を、空間すら裂きながら直進する。その先に存在する女性を貫き尚も直進を続ける。
腹を貫かれた女性は、笑いながら貫通した腹から無数の悪魔を解き放つ。
たかが、数万の兵にやられる程度の雑魚にもなれない存在はここにはいない。
これが後に『自殺事変』と呼ばれる時代の最後の一日に起きた『英雄大戦』もしくは『魔人大戦』である……
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