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都市からは光が失われていた。
民家、商店ともに輝きはなく、所有者と共に活動を停止している。
空は何処までも黒く、このまま朝は来ないのではないかと錯覚するほどだった。
だがその中にあって、路地裏にて活動を続ける者がいた。かたや、眠っている者を叩き起こす勢いで、マズルフラッシュを銃声と共に瞬かせ、かたや、その全てを回避、ないし防御する事で逃走を続けていた。
「相手はガキだ、恐るるに足らん!!」
追跡者の先頭に立つ男は、同僚、そして自分を鼓舞するように叫び、銃弾を放ち続ける。
放たれた銃弾の四割は逃走者の周囲に弾痕を残し、残りの六割は逃走者の背中を目前にし、暫しの間宙に浮き、その後、力を失い真下に落下する。
「ハァ……ハァ……しつこい……!」
逃走を続けていた少女は振り返り、右手でしっかり握った杖を追跡者に向ける。
動きを止めた少女に向け、銃弾は容赦なく襲い掛かる。が、その全てが、先程のように落下していく。
「汝(なんじ)、我が魔力を喰らい汝の務めを果たせ―」
杖の先端に付けてある水色の水晶は、少女の呟きに呼応するかのように、輝きをましていく。
その輝きは一定を超えた時点で、水晶の前に小さな球体が現れた。それは水晶と同じ色を帯び、徐々に巨大化していく。
「汝が願い、我が叶えん、ただ一度の契約、汝慎重に選択せよ―」
球体とマズルフラッシュに晒され、少女の姿があらわになる。
この夜と同じ黒のロングヘアに、髪と同じ瞳、何より少女を特徴付けているのは、着ている衣が全て合羽な事だろう。
「汝の障害は我が障害、我が障害は汝の障害、我等共棲の関係なり―」
球体は少女を覆い隠し、尚も膨張し続けている。銃弾はもはや、少女ではなく球体を目標にしていた。球体は殺到する銃弾をことごとく原子に還元していた。
その姿に追跡者の半数は逃走を開始した。
「魂の盟約は果たされた、これは救済の願いであり、これは不可避の呪いである―!」
球体は極太の光線と化し、逃走を初めた者も射撃を続けた者も平等に光の中へと消し去った。
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