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少年が眼を覚ました時、闇が完全に裂け、昼と勘違いしていた。
もちろんそれは誤りであり、勘違いさせた正体は日輪と見紛んばかりの光だった。
路地裏から放たれた光は、民家を四つ程挟んだゴミ捨て場にすら、昼と見紛う光を注いでいた。
(ここは、何処だ?)
光が収縮し、本来齎(もたら)されるべき闇が戻るにつれ、少年は自分の身に起きている異変を急速に理解した。
何も理解出来ないという事を。
不思議と何の感情も湧かない。何かを失ったという実感もない。状況は無知と代わらない故か、焦りも動揺もしない。
大事な事を忘れた気もしたが、まるで初めから何もなかったかのように頭では思い出せない。
少年は立ち上がり、先程日輪が現れた地点に足を進めた。
身体が覚えている。あの光の先に記憶の大事な一片があると、それが一番先に思い出すべき記憶だと。
『見~つけたぜぇ、合羽女ぁぁぁ!!』
ゴミ捨て場に時間帯を無視した轟音が響き渡る。直後、壁を穿つ破滅の特性を帯びた光が少年のすぐ側を通り過ぎた。
轟音に違わぬ巨躯が、光が造り出した荒々しい通路を荒々しく通る。多少、サイズが合わなかったのか、巨躯の一部が巨穴を更に巨大な存在にする。
たった今出来た通路が辿りつく先は一つだ。そしてやはり身体が覚えている。今通った存在は敵だ、そして、敵に対する対応の仕方も。
少年は腐臭と鉄の臭いが漂うゴミ捨て場を跡にした。
――――――――――――――
壁に出来た巨穴を出た先には、倒れた人間と右手に持っている水晶付きの何か、そしてその人間に向かう兵士達だ。
兵士の後ろには、先程通った巨躯の兵器がぼんやりと見えた。
人間から何かを吸ったと言える程、水晶は輝いていた。
水晶から声が聞こえる。厳密には、それは少年の頭に直接響く、所謂『テレパシー』と分類出来るものだろう。
(タスケテタスケテ助けて贍けて+けて多主けて足けて)
(たすけて!)
兵士が人間の服に触れた時、記憶を頼りに接近し、右手の裾からナイフを出し、兵士の首を引き裂いた。
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