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倉主市中倉地区のとある住宅街を男が歩く。
人混みの中に居てもすぐに見つけられそうな長身が一際目をひく。
茶髪のロン毛で、体は細いが所々筋肉が盛り上がっている。
肌寒い季節だというのに派手な模様が描かれた半袖のシャツをラフに着て、所々裂けたデニム、手にはケータイ、重そうなピアスやブレスレットの数々。
まともには見えない若者の典型例のような男は、ただ歩く。
「あー、今日は時化てんなァ……人っ子一人居やしねェ」
男は喋る。
「どっかにヒマを持て余したキレーなお嬢さん居ませんかァ!?」
否、叫ぶ。
「……」
ヒュウ、と風が吹いた。そよ風程度のそれにまともな人ならば無視するだろう。
「ソレが返事かよ、お嬢さんさァ?」
しかし、男の反応はおおよそまともとは言い難いものだった。
「私なりの淑女の御返事のつもりだったんだけどね?」
物影から出てきたのは長い髪がよく目につく女だ。
黒い髪に緑の艶が見えるが染色でもしたのだろうか。
痩身で肌も白く、まるで病人のようだがその表情には活力が宿っていた。
派手な装飾は無く質素な印象を受けるが、その分見えない何かが男を圧倒しているようにも見えた。
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