崖の途中の始まり

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耳元で風ががなりたてる。その耳障り加減と同じぐらいの強さで、風圧が彼の身体中を叩きまわす。 彼の名はフジタ・ミヨシ。眼下の森に向かって真っ逆さまに落下している最中だった。 ミヨシは自殺志願者だったというわけではない。この状況に至るには、時を数時間ほど遡る。 --- フジタ・ミヨシは村の小さなパン屋の若い店主だ。村人はみな、朝食を彼の店でとる。村人の朝食が終わると、近くの森へ木の実を採りに出掛けるのが日課だった。彼のパンは村人から分けてもらった小麦粉、農作物と彼が集めた木の実でできている。 この日も彼は明日のパンに使う木の実を集めに森へ出掛けた。いつも通る道の中頃まで来たとき、一人の男が脇から現れた。
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