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「見たんだよ。まさか私の目の前で、そんなことするなんて」
「久美子……あれは……」
これは、夢だ。
どんなにドキドキしたとしても、すぐに目が覚める。
何度もそう思いながら、強く目をつぶっては閉じるのを繰り返す。
それでも、鐘の音が聞こえることはなく、代わりに聞こえてくるのは、ますます甲高くなるばかりの久美子の声だった。
「翼くんは、私の大好きな人なんだよ?
千夏だって、知ってるくせに!」
「知ってるよ。
知ってるに決まってるでしょ……」
なんと言っていいのか分からない。
久美子の言葉はどれも正しかった。
だからこそ、鋭い刃となって千夏の心を切り刻んでいく。
なんとか言葉を返さなければいけないと分かってはいても、弱々しい声は、久美子の言葉をそのまま繰り返すばかりだった。
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