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千夏ははっとした。
久美子の話を聞いていたはずなのに、一瞬、彼女の声が頭に入ってこなかった。
千夏は頭を振って、彼女の話に集中しようと努めた。
「ちゃんと話さないとダメだよ!なんか喧嘩してるの?」
「そういうわけじゃないよ」
「だったら、ちゃんと雅人くんだけを見なきゃ!」
久美子が押し付けるように言うのを聞いて、千夏は怒りが湧き上がってくるのを感じた。
どうして彼女にそんな言い方をされなければならないんだとさえ、思った。
今日はやけに感情の振り幅が大きい。
それは自分でも分かっていた。
それでも、どうにも我慢できそうにない。
「なにそれ。私はべつに……」
しかし、言いかけた言葉は、途中で飲み込まなければならなかった。
思いもかけない久美子の声が、そうさせたのである。
「さっき、翼くんと手をつないでたでしょ」
その言葉を理解しようと、脳が必死に働く。
携帯電話を持つ手が震え始めるのを、止めることなどできなかった。
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